プレイのきっかけ
以前の記事にも書いた通り、 冬茜トム氏の アメイジング・グレイス -What color is your attribute?- が面白かったので、他の作品もプレイしようかと考えていた。
順序としては、レビュー評価はアメグレ等より下がるものの、より古い作品である もののあはれは彩の頃。 をまずプレイした。
男性キャラの絵が残念(女性キャラと絵師が違う)とか、ストーリーの背景がよく分からなかったりとか、残念なところもそれなりにあったが、やはり冬茜トム氏と言ったところか、最後まで読むのを止められないストーリーだった。
その後、途中で放置してストーリーを忘れてしまっていた他のVisual Novelを進めようとしていた。ただ、途中で止めていたというのがやっかいで、細かいところは忘れてしまったが、大枠のストーリーは覚えている状態であり、長いストーリーだったこともあって再び停滞してしまった。
そんな中、つい出来心で、アメグレを超えるという評価も多い さくらの雲*スカアレットの恋 を始めてしまったら、最後まで止まらなくなったというのが、今回のプレイの経緯である。
さくらの雲*スカアレットの恋
元々大正ロマン的な雰囲気が好きだったのと、アメグレから引き続きの梱枝りこ氏の絵も好きだったので、さくレットは最初から期待値が高かった。
Webレビューでもしばしば指摘されている通り、終盤の伏線回収は圧倒的だし、細かい設定は雑だったり違和感があったりすることも少なくないのは、アメグレと似ていると実感した。
双六をはじめ、アメグレやもののあはれは彩の頃。で出てきた話が再度使われている部分も度々あった。過去作を先にやっていて良かったとも言えるし、過去作をやっていたがために終盤以外は焼き直し感を強く感じたとも言える。
引きずる程の喪失感ではないけれど、間違いなく面白かったし、そこそこ感動もして、自分の中で強く記憶に残る作品だったことは間違いない。
敢えて言うなら、R18シーンを各ヒロインのルートの終盤に何度も立て続けに入れているのは、違う形に出来ないのかとは思った。正直、途中からはくどくてSkipし続けるばかりだったが、ストーリーにも多少絡むので、本来はあまりSkipはしない方が良いのだろう。
冬茜トム氏の他の作品でも同じことを感じたが、謎解きのメインストーリーについては設定が細かく行われている一方で、各ヒロインの過去などの設定は限定的である。
過剰なR18シーンは、各ヒロインの過去の深掘りや、アフターストーリーに対する期待を交わすために存在しているかのようにも感じてしまう。
Visual Novelの各ルートが提示するもの
“True End” or “Grand End” があるような、攻略可能ヒロインは複数いる一方で、ストーリー自体は一本道に収束するような恋愛ADVは、以下のような「未来」の提示をしていることが多いように思う。
最終ストーリー以外のヒロインとのGood End
目を背けた真実や、明らかな妥協は存在しつつも、愛し合う相手と結ばれ、「普通の幸せ」を掴むストーリー。
一方で、「普通の幸せ」を掴むまでの道のりは、「ありきたり」ではなく、むしろ「特別」である。
苦難を共に乗り越えたり、複雑な過去を認め合ったり。これらは現実世界の「普通の幸せ」には滅多に含まれないものだ。
True/Grand End
目の前の「普通の幸せ」の選択肢を拒否して辿り着く、真実へと向き合うルート。ハッピーエンドかどうかは物語によるが、「あるべき理想の/立派な結末」が描かれている。
現実世界は世知辛いかもしれないが、特異的な試練に立ち向かうようなことは基本的になくて、ほとんどの人は凡庸な人生を送っているに過ぎない。
むしろ現実社会では、「長いものに巻かれない」選択をして、それが結果に結びつくことは稀である。
「救い」としてのVisual Novel
自分のような理想主義かつロマンチストな人々にとって、現実世界は「自らの望みを全否定する」かのようである。
正論はしばしば通らないし、正論を通そうとしたことで、周囲から敵意を持たれることも少なくない。苦労の末、正論を実行するだけの力を身につけたとしても、そんな状態は長続きしないものだ。
そもそも、現実世界は物語のように単純ではない。理知的であればあるほど、「何が正しいのか」に明確な答えは出せなくなる。
一方で、「普通の幸せ」を求めることも、理想主義かつロマンチストな人々にとっては難しい。恋人の条件に「苦難を共に乗り越えた経験」を求めることは、高レベルなルックス・性格・収入、趣味の一致…を求めるのとは訳が違う。
「そこそこの幸せ」は理想主義かつロマンチストな人々には縁遠いものだ。
そこにあるのは、「理想とのギャップに苦しみ続ける人生」か「理想主義・ロマンチストであることを止めた人生」の2種類のみである。いずれにせよ「希望の無い人生」が待っている。
「理想を目指して奔走」したが上手くいかず、「普通の幸せを選ぶために重大な妥協」をしたにも関わらず結果が伴わなければ、人生には絶望しか残っていない。
そんなとき、このようなVisual Novelは素敵な幻を見せてくれる。
大きなイベントを経て結ばれるヒロインのルート。それが存在してなお、「大きな理想を追い求める」選択を肯定してくれるTrue/Grand Endへの道のり。そして、各ヒロインのルートのような「遠回り」すら「無駄では無かった」と感じさせる最終ストーリー。
そうして、「全てがどうでも良くなってしまう」直前で立ち止まるように導いてくれるのだ。「幻の希望」だけを頼りに生きていけるように。